ある屋根部屋の扉が開いて軋《きし》ったので目をさました。それから前夜階段を上ってきたのと同じ男の足音が聞こえた。足音はだんだん近づいてきた。彼は寝室から飛びおりて、鍵穴に目をおし当てた。穴はかなり大きかったので、前夜家の中にはいり込んできて扉の所で立ち聞きした其奴《そいつ》が通ってゆく所を、見て取ってやろうと思ったのである。果してそれは男であった。しかしこんどは別に立ち止まりもせずに室の前を通りすぎてしまった。廊下の中はまだ薄暗かったので、その顔はよく見分けられなかった。しかし男が階段の所まで行った時、外から差し込む一条の光が影絵のようにその姿を浮き出さした。ジャン・ヴァルジャンはそれを後ろからすっかり見て取った。背の高い男で、長いフロックを着、腕の下には太い杖を持っていた。それはジャヴェルの恐ろしい後ろ姿のようだった。
ジャン・ヴァルジャンは大通りに面する窓からも一度その男を見ることができるのだった。しかしそれには窓を開かなければならなかった。彼はそれをあえてなし得なかった。
明らかにその男は、鍵《かぎ》を持っていて自分の家にでもはいるようにはいってきたのだった。だれがその鍵を与
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