をはいてるし、年取った女の足音は男の足音によく似てるものである。それでもジャン・ヴァルジャンは蝋燭《ろうそく》を吹き消した。
 彼は低い声で「そーっと寝床におはいり」とささやいて、コゼットを寝かしにやった。そして彼がコゼットの額に脣《くちびる》をあてた間に、足音は止まってしまった。ジャン・ヴァルジャンは黙って身動きもせず、背を扉《とびら》の方へ向け、そのままじっと椅子《いす》に腰掛けて、暗やみのうちに息を凝らした。かなりしばらくたっても何の音も聞こえないので、彼は音のしないように向きを変えた。そして室《へや》の入り口の扉の方へ目を上げると、鍵穴《かぎあな》から光が見えた。それが扉と壁とに仕切られた暗黒のうちに、不吉な星のように見えていた。確かにそこには、だれかが手に蝋燭を持ち聞き耳を立てているのだった。
 数分過ぎて、光は立ち去った。が何の足音も聞こえなかった。それでみると、扉の所へきて立ち聞きしていた男は、靴を脱いでたに違いなかった。
 ジャン・ヴァルジャンは着物を着たまま寝床に身を投じた。そして終夜目を閉じることができなかった。
 夜明け頃、疲れたのでうとうとしていると、廊下の奥に
前へ 次へ
全571ページ中304ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング