、爺《じい》さん、」とジャン・ヴァルジャンは彼に銅貨をやりながら思い切って言ってみた。乞食は顔を上げた、そして悲しい声で答えた。「ありがとうございます、親切な旦那様《だんなさま》。」それはまさしく老寺男であった。
ジャン・ヴァルジャンはすっかり安心を覚えた。彼は笑い出した。「ジャヴェルだなんて、何を見違えたんだろう、」と彼は考えた、「俺ももう目がぼけてきたのかな。」そして彼はそのことをもう考えなかった。
それから数日後のこと、晩の八時ごろであったろう。ジャン・ヴァルジャンは室《へや》の中にいて、大きな声でコゼットに綴《つづ》りを読ましていた。その時彼は、家の戸口があいてまたしまるのを聞いた。それが彼には異様に感ぜられた。彼といっしょにその家に住んでいたただ一人の婆さんは、蝋燭《ろうそく》を倹約するためにいつも夜になるとすぐに寝るのだった。ジャン・ヴァルジャンは手まねでコゼットを黙らした。だれかが階段を上ってくる音が聞こえた。あるいは婆さんが加減が悪くて薬屋にでも行ったのかも知れない。ジャン・ヴァルジャンは耳を傾けた。足音は重々しく男のような響きだった。しかし婆さんは大きな靴《くつ》
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