り越しの顔であるように思えた。突然暗やみの中で虎《とら》と顔を合わしたような感じがした。彼は思わず縮み上がって石のようになり、息をすることも口をきくこともできず、そこにいることもまた逃げ出すこともできず、その乞食をじっと見守った。乞食はぼろぼろの頭巾《ずきん》をかぶった頭をたれて、もう彼がそこにいることをも知らないがようだった。その異常な瞬間に、ジャン・ヴァルジャンが一言をも発しなかったのは、本能のため、おそらく自己防衛の隠れた本能のためだったであろう。乞食《こじき》はいつもと同じような身体《からだ》つきをし、同じようなぼろをまとい、同じような様子をしていた。「いやいや……」とジャン・ヴァルジャンは言った、「俺は気が狂ったんだ。夢を見たんだ。あり得べからざることだ!」そして彼はひどく心を乱されて家に帰った。
ちらと見たその顔がジャヴェルの顔であったとは、ほとんど自分自身にさえ彼は言い得なかった。
その夜、彼はそのことを考えふけりながら、今一度顔を上げさせるために男に何か尋ねてみればよかったと思った。
翌日夕暮れに、彼はまたそこへ行った。乞食《こじき》はいつもの所にいた。「どうだね
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