もう、コゼットは笑い戯れ歌っていた。子供というものは小鳥と同じく朝の歌を持っている。
 時とするとジャン・ヴァルジャンはコゼットの皸《ひび》のきれたまっかな小さい手を取って、それに脣《くちびる》をつけることもあった。あわれな子供は、いつも打たれることばかりになれていたので、その意味がわからずに、恥ずかしがって手を引っ込めた。
 また時には、コゼットはまじめになって、自分の小さな黒服をながめることもあった。彼女はもうぼろではなく、喪服を着ていた。彼女は悲惨から出て普通の生活にはいっていた。
 ジャン・ヴァルジャンは彼女に読み方を教え初めた。彼はそうして子供につづりを言わせながら、自分が徒刑場で読み方を学んだのは悪事をなさんがための考えからであったことを時々思い出した。その考えは今では子供に読み方を教えることに変わっていた。そしてその老囚徒は天使のような思い沈んだ微笑をもらした。
 そこに彼は、天の配慮を感じ、人間以上の何かの意志を感じ、我を忘れて瞑想《めいそう》にふけるのであった。善き考えも悪き考えと同じく、その深い淵《ふち》を持っているものである。
 コゼットに読み方を教えること、また
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