階は、荒廃した小屋同様で、八百屋《やおや》などの物置きになっていて、二階とは何らの交渉もなかった。二階と一階とをへだてる床《ゆか》には、引き戸も階段もなく、その破屋の横隔膜のような観があった。二階には前に言ったとおり、多くの室と数個の屋根部屋とがあったが、ただその一つに一人の婆さんが住んでるのみだった。その婆さんがジャン・ヴァルジャンにいっさいの用をしてくれた。そのほかにはだれも住んでいなかった。
 婆さんは借家主[#「借家主」に傍点]という名義であったが、実は門番の役目をしてるにすぎなかった。クリスマスの日に、ジャン・ヴァルジャンに住居《すまい》を貸してくれたのはその婆さんだった。まだ年金は持ってるが、スペインの公債に手を出して失敗したので、孫娘とともに住みに来るのだと、ジャン・ヴァルジャンは婆さんに言っておいた。彼は六カ月分の前払いをして、前に述べた通りの道具を両室に備えるように婆さんに頼んでおいた。その晩暖炉に火をたき、二人が来る準備をすっかりしてくれたのは、その婆さんだった。
 数週間過ぎ去っていった。二人は惨《みじ》めな室《へや》の中に楽しい生活をしていた。
 夜明けごろから
前へ 次へ
全571ページ中293ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング