言いながら彼は、三枚の紙幣を男の前に差し出した。
男は目をあげた。
「それはいったいどういうわけですか。」
テナルディエは丁寧に返事をした。
「旦那、コゼットを返していただきたいと申すのです。」
コゼットは身を震わして、男にひしと寄りすがった。
男はテナルディエの目の中をのぞき込みながら、一語一語ゆっくりと答えた。
「君がコゼットを、返してもらいたいのですと?」
「はい旦那《だんな》、返していただきましょう。こういうわけなんです。私はよく考えてみました。実際私は旦那に娘をお渡しする権利はありませんのです。私は正直な人間ですからな。この娘は私のものではなく、その母親のものです。私にこの娘を預けたのは母親ですから、母親にだけしか渡すことはできません。母親は死んでるではないかと旦那はおっしゃるでしょう。ごもっともです。で私はこの場合、この人に子供を渡してくれといったような、何か母親の署名した書き付けを持って参った人にしか、子供を渡すことはできませんのです。明瞭《めいりょう》なことなんです。」
男は何とも答えないでポケットの中を探った。テナルディエは紙幣のはいってる紙入れがまた出てく
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