るのを見た。
テナルディエはうれしさにぞっとした。
「うまいぞ!」と彼は考えた、「一つ談判をしてやろう。俺を買収するつもりだな。」
紙入れを開く前に、旅客はあたりを見まわした。まったく寂寞《せきばく》たる場所だった。森の中にも谷合いにも一つの人影も見えなかった。男は紙入れを開いた。そして中から、テナルディエが待っていた一つかみの紙幣ではなく、一枚の小さな紙片を取り出した。男はそれを開いて、テナルディエの前につきつけて言った。
「道理《もっとも》です。これを読んでもらいましょう。」
テナルディエは紙片を取り上げて読んだ。
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モントルイュ・スュール・メールにて、一八二三年三月二十五日
テナルディエ殿
この人へコゼットを御渡し下されたく候
種々の入費は皆支払うべく候
謹《つつし》みてご挨拶《あいさつ》申し上げ候
ファンティーヌ
[#ここで字下げ終わり]
「君はこの署名を覚えていましょうね。」と男は言った。
それはいかにもファンティーヌの署名だった。テナルディエはそれを認めた。
もう何ら抗弁の余
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