、ただ通りかかったのです。それだけです。……そして、」と彼はつけ加えた、「勘定は?」
上さんは何とも答えないで、折り畳んだ書き付けを彼に差し出した。
男はそれをひろげてながめた。しかし明らかに彼の注意は他の方へ向いてるらしかった。
「お上さん、」と彼は言った、「この土地では繁昌《はんじょう》しますかね。」
「どうにか旦那《だんな》。」と上さんは答えながら、男が別に何とも言わないのでぼんやりしてしまった。
彼女は悲しそうな嘆くような調子で続けて言った。
「どうも、不景気でございますよ。それにこの辺にはお金持ちがあまりありませんのです。田舎《いなか》なもんですからねえ。時々は旦那のような金のある慈悲深い方がおいで下さいませんではね。入費《いりめ》も多うございますし、まああの小娘を食わしておくのだってたいていではございません。」
「どの娘ですか。」
「あの、御存じの小娘でございますよ、コゼットという。この辺では皆さんにアルーエット([#ここから割り注]訳者注 ひばり娘の意[#ここで割り注終わり])と言われていますが。」
「ああなるほど。」と男は言った。
上さんは続けた。
「百姓ってな
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