れから一日でも家に置いとくくらいなら、ルイ十八世のお妃《きさき》にでもなった方がまだましだ。」
 テナルディエはパイプに火をつけ、煙を吹きながらそれに答えた。
「お前から勘定書をあの男に渡してくれ。」
 そして彼は室《へや》から出て行った。
 彼が出てゆくや否や、旅客がはいってきた。
 テナルディエはすぐに客の後ろにまた現われて、女房にだけ見えるようにして半分開いた扉《とびら》の所にじっと立ち止まった。
 黄色い着物の旅客は、杖と包みとを手に持っていた。
「まあこんなにお早く!」と上さんは言った。「もうお発《た》ちですか。」
 そう言いながら彼女は、具合悪そうに勘定書を両手のうちにひねくって、爪《つめ》で折り目をつけていた。その冷酷な顔には、珍しく卑怯《ひきょう》と懸念との影が見えていた。
 どう見ても「貧乏人」としか思われない男にそんな書き付けを出すことが、彼女には何だか不安に思われたのである。
 旅客は何かに心を奪われてぼんやりしてるようだった。彼は答えた。
「ええ、もう発ちます。」
「旦那《だんな》は、」と上さんは言った、「モンフェルメイュに用がおありではないんですか?」
「いや
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