具やオレンジの花の中古の帽子などを買い取った。それによって「自分の配偶者」には優雅な光がそうことになり、そうしておけばこの家もイギリス人のいわゆるりっぱな体面をそなえることになると、彼は考えたのであった。
 旅客がふり返った時には、亭主はもうそこにいなかった。テナルディエは翌朝うまく金をしぼり取ってやるつもりのその男には不遠慮な親しい待遇をしないがいいと思って、あいさつもせずにひそかに逃げ出してしまったのである。
 亭主は自分の室に退いた。女房は床《とこ》についていたが、眠ってはいなかった。亭主の足音が聞こえた時彼女はふり向いて言った。
「私|明日《あした》になったらコゼットをたたき出してしまいますよ。」
 テナルディエは冷ややかに答えた。
「そうか。」
 彼らはその他の言葉をかわさなかった。やがて蝋燭《ろうそく》は消された。
 旅客の方では、室の片すみに杖と包みとを置いた。亭主が出て行くと、肱掛椅子《ひじかけいす》にすわってしばらく考え込んだ。それから靴をぬぎ、蝋燭の一本を手に取り一本を吹き消し、扉《とびら》を押し開き、何かをさがすようなふうであたりに目を配りながら室を出て行った。廊
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