彼を二階の室に導いた。特別にりっぱな室で、マホガニー製の家具が備えてあり、船型寝台と赤いキャラコの帷《とばり》とがついていた。
「これはいったい何ですか。」と旅客は言った。
「私どもの結婚の時の室でございます。」と主人は言った。「今では私ども二人は他の室に寝るようにしています。一年に三四度しかだれもはいらないのです。」
「私には廐でも同じだったのに。」と男は無造作に言った。
テナルディエはそのあまり愛想のない言葉を耳にしなかったようなふうをした。
彼は暖炉の上に出てる新しい二本の蝋燭に火をともした。炉の中にはかなりよく火が燃えていた。
暖炉棚の上にはガラス器の中に、銀糸とオレンジの花とのついた女の帽子が一つあった。
「そしてこれは、何ですか。」と男は言った。
「旦那《だんな》、それは家内が結婚の時の帽子でございます。」とテナルディエは答えた。
旅客はそれをながめたが、「ではあの怪物にも処女の時代があったのかな、」とでもいうような目つきだった。
だがテナルディエは嘘《うそ》を言ったのである。その家を借りて飲食店にしようとした時から、室《へや》は今のとおりであった。彼はそれらの家
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