テナルディエはまた酒をのみ初めた。女房は彼の耳にささやいた。
「あの黄色い着物の男はいったい何者でしょう。」
「わしは大金持ちがあんなフロックを着てるのを見たことがある。」とテナルディエはおごそかに答えた。
コゼットは編み物をそこにほうり出した。けれどもその場所からは出てこなかった。コゼットはいつもできるだけ身を動かさないようにしていた。彼女は自分の後ろの箱から、古いぼろと小さな鉛の剣とを取り出した。
エポニーヌとアゼルマとは、あたりに起こったことに少しの注意も払っていなかった。二人はちょうどきわめて大事なことを初めたところだった。猫《ねこ》をとらえたのである。人形は下にほうり出してしまっていた。そして年上の方のエポニーヌは、猫が泣きもがくのもかまわずに、赤や青の布《きれ》やぼろでそれに着物をきせようとしていた。その大変なむずかしい仕事をやりながら、妹に子供特有のやさしいみごとな言葉で話しかけていた。そういう言葉の優しさは胡蝶《こちょう》の真の輝きにも似たもので、つかもうとすれば遠くに逃げ去るものである。
「ねえ、この人形の方があれよりよっぽどおもしろいわよ。動いたり、泣いたりして
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