ら。」
 男は彼女に桶を渡した。それからすぐに二人は、宿屋の戸口の所にきた。

     八 貧富不明の男を泊むる不快

 コゼットはわれ知らず、玩具屋《おもちゃや》の店に並べてある大きな人形の方をじろりとながめた。それから家の戸をたたいた。戸は開かれて、テナルディエの上さんが手に蝋燭《ろうそく》を持って出てきた。
「ああお前か、この乞食娘《こじきむすめ》が! 何だってこんなに長くかかったんだ。どっかで遊んでいたんだろう。」
「お上さん、」とコゼットは身体じゅう震え上がって言った、「あの方が泊めてもらいたいってきています。」
 上さんは、宿屋の主人がいつでもするように、邪慳《じゃけん》な顔つきをすぐに和らげた。そして新来の客の方をむさぼるようにながめた。
「あなたですか。」と彼女は言った。
「さようです。」と男は答えながら、帽子に手をあてた。
 金のある旅客はそんな丁寧なことはしないものである。その身振りをながめ、またその男の服装と荷物とを見て取って、テナルディエの上さんの愛想顔はまた慳貪《けんどん》になった。彼女は冷ややかに言った。
「おはいりなさい、お爺《じい》さん。」
「お爺さん
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