」は中にはいった。上さんはまたじろりと彼の姿をながめ、すっかりすり切れたフロックと破れかかった帽子とに特に目をとめ、それから、頭をつんとあげ鼻頭にしわを寄せ、まばたきをして、亭主の意向をさぐった。亭主はやはり馬方らといっしょに飲んでいたが、ちらと人さし指を動かしてそれに答えた。そういう場合、それはふくらした脣とともに、「一文なしだ」という意味であった。それを見て上さんは叫んだ。
「お前さん、大変お気の毒だが、室《へや》があいてませんよ。」
「どこでもいいから泊めて下さい、」と男は言った、「物置きでも、廐《うまや》でもよろしいです。一室分の代は払いますから。」
「四十スーですよ。」
「四十スー。承知しました。」
「そんならよござんす。」
「四十スーだと!」と一人の馬方が上さんに低くささやいた。「普通は二十スーじゃないか。」
「あの男には四十スーだよ。」と上さんは同じく低く答えた。「それより安くちゃ貧乏人は泊められない。」
「そのとおりだ。」と亭主も静かに口を添えた。「あんな男を泊めると沽券《こけん》を落とすからね。」
 その間に男は、腰掛けの上に包みと杖とを置き、一つのテーブルに向かって
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