い絶えざる磁石のような働きによってすべてを指導していた。一言で、また時には一つの手まねで、もう十分だった。怪物のような女房はそれに従った。女房はただなぜとなく、亭主を特殊な主権的な者のように感じていた。彼女は自己一流の徳操を持っていた。何かのことに「主人テナルディエ」と意見が合わぬことはあっても、いな、実際そういうことはあり得ないことではあったがまあそう仮定するとしても、彼女は決して何事に限らず人前で亭主をやりこめることをしなかったであろう。しばしば女がやりたがるあの過ち、法廷風な言葉でいわゆる「夫の尊厳を汚す」というような過ちを、彼女は決して「他人の前で」犯すことはしなかったであろう。彼らの同意はその結果悪事ばかりを産み出すものではあったが、テナルディエの女房が自分の夫に服従してる趣のうちには、ある静観的なものがあった。大声とでっぷりした肉体とを持っている山のような女は、小柄な専制君主の指一本の下に動いていた。それは、その低劣な可笑《おか》しな一面からのぞいてみたる普遍的な偉大な事実、精神に対する物質の尊敬、そのものであった。ある醜悪も、永遠の美という深淵のうちにその存在の理由を持っ
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