ぞうお》の深い釜を持ってるようだった。絶えず復讐《ふくしゅう》の念をいだいていて、自分に落ちかかってきたことはすべて目の前のものの罪に帰し、生涯《しょうがい》の失意|破綻《はたん》災難のすべてを正当な不平のようにいつもだれにでもなげつけようとしているかのようだった。すべてのうっ積した感情が心のうちに起こってきて、口と目から沸き立って来るかのようだった。そして恐るべき様子になるのであった。そういう彼の激怒に出会った人こそ災難である!
その他種々な性質のほかにテナルディエはまた、注意深く、見通しがきき、場合によっては無口だったり饒舌《じょうぜつ》だったりして、いつもきわめて聡明《そうめい》だった。望遠鏡をのぞくになれた船乗りのような目つきを持っていた。彼は一種の政略家であった。
その飲食店に初めてやってきた者はだれでも、テナルディエの上《かみ》さんを見て、「あれがこの家の主人だな」と思うのだった。しかしそれはまちがっていた。いな、彼女は一家の主婦でさえもなかった。主人でありまた主婦であるのは、亭主の方であった。女房の方は仕事をした、そして亭主の方はその方針を定めた。彼は一種の目に見えな
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