まく二つの国境をまたいで歩いていた。彼のいわゆるワーテルローの武勇については、読者の既に知るとおりである。いうまでもなく彼はそれを誇張して話していたのである。変転、彷徨《ほうこう》、冒険、それが彼の一生のおもなでき事であった。内心の分裂は生活の不統一をきたす。宜《むべ》なるかな、一八一五年六月十八日の騒乱の時に当たってテナルディエは、あの酒保兼盗人の仲間にはいっていた。それら一群の者どもは前に述べたとおり、戦場をうろつき、ある者には酒を売りつけ、ある者からは所持品を略奪し、男も女も子供も一家族一つになって、変なびっこの車にのり、本能的に勝利軍の方へくっつき、進撃する軍隊のあとについて彷徨するのである。そういう戦争に参加して、自称するごとくいくらか「銭《ぜに》を儲《もう》け」て、それから彼はモンフェルメイュにきて飲食店を開いたのであった。
その銭《ぜに》なるものも、死骸をまいた畑から収穫時にうまく刈り取った、金入れ、時計、金の指輪、銀の十字勲章、などにすぎなくて、大した金高にもならなかった。そしてそれだけでは、飲食店になったその従軍商人を長くささえることはできなかったのである。
テナ
前へ
次へ
全571ページ中172ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング