を飲んでる男や、煙草《たばこ》をふかしてる男、中はうす暗くて、しかも騒然たる音を立てていた。けれども一八二三年という年には、特にいちじるしく市民階級《ブールジョア》の間に流行してきた二つの物があった。すなわち万華鏡《カレードスコープ》と木目模様《もくめもよう》のブリキのランプとである。この広間にもその二つがテーブルの上にのっていた。そしてテナルディエの上《かみ》さんは、明るく燃え立った火の前であぶられてる夕食のごちそうの番をしており、亭主の方は、客たちと酒を飲みながら政治を論じていた。
スペイン戦争やアングーレーム公を中心にした政治談のほかに、なお地方的の種々な事がらに関する談笑もあった。次のような言葉も聞かれた。
「ナンテールやスュレーヌの方では葡萄酒《ぶどうしゅ》がえらくできたぜ。十樽《じったる》くらいかと思ってると十二樽もあるんだ。圧搾器のために液汁《しる》が多く取れたんだ。――だが葡萄はまだ熟しちゃいなかったろうじゃねえか。――なにあちらじゃ、熟すまで置きゃしねえ。熟してから採ったんじゃあ葡萄酒は春になるとねばっちまわあ。――それじゃあ薄い葡萄酒だね。――そうとも、この辺にで
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