者は兵士の服従を国民の同意と誤認するの恐るべき誤りに陥った。そのような安心は王位を失わせるに至るものである。毒樹の陰には眠るべからず、軍隊の影に隠れて眠るべからずである。
 さてオリオン号に立ち戻ってみよう。
 ちょうど総司令官大侯に指揮された軍隊が出動している間、一艦隊は地中海を游弋《ゆうよく》していた。そして前述のとおり、その艦隊に属していたオリオン号は荒海に損《いた》んでツーロン港に帰ってきたのである。
 港のうちに現われる軍艦は、何かしら群集を引きつけ群集の心を奪うものである。なぜなら、それは一種の偉大さをもっているものであるから、そして群集は偉大なるものを好むものであるから。
 戦闘艦は人間の脳力と自然の力との最も壮観なる争闘の一つである。
 戦闘艦は最も重きものと最も軽きものとから同時に組み立てられている。なぜならばそれは、物質の三形体たる固体液体および気体に同時に対抗し、その三つと戦わなければならないからである。海底の岩石をつかむためには十一本の鉄の爪を有し、雲間の風をとらえるためには胡蝶《こちょう》よりも多くの翼と触角とを有している。その息は巨大なるラッパからのように百
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