二十の砲門からいで、誇らかに雷電に対しても答え返す。大洋はその波濤《はとう》の恐るべき一律さのうちに彼を迷わさんとするけれども、彼はその心を、羅針盤《らしんばん》を有していて、それに助言されて常に北を教わる。暗夜にはその照燈が星の光を補う。かくして彼は、風に対しては索繩《なわ》と帆布とを有し、水に対しては木材を、岩に対しては鉄と銅と鉛とを、やみに対しては光を、広漠に対しては磁針を有している。
 全体として一つの戦闘艦を形造っているその巨大なる構造のおおよその概念を得んと欲するならば、ブレストかツーロンの港の七階の高さほどもある屋根のついたドックの一つにはいってみれば十分であろう。そこでは建造中の船が、いわばガラスびんの中にでもはいっているように見える。あの巨大なる梁《はり》は帆桁《ほげた》である、あの目の届く限り長く地上に横たわっている大きな木の円柱は大檣《ほばしら》である。船艙《せんそう》の中の根本から雲間の梢《こずえ》までそれを測ってみると、長さ六十|尋《ひろ》を算し、根本の直径三尺に余る。イギリス船の大檣は、喫水線《きっすいせん》上二百十七尺の高さに及ぶものがある。昔の船は麻綱を
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