。フランスの軍隊に混入した僧侶ら。銃剣によって抑圧された自由と新時代との精神。砲弾の下に屈伏された主義。その精神によってなしたところのものをその武器によって破壊するフランス。これに加うるに、売られたる敵の将帥らと、逡巡《しゅんじゅん》する兵士らと、数百万の金によって包囲された都市。あたかも不意を襲われて占領された火坑におけるがごとく、軍事上の危険の皆無としかも爆発の可能。流血も少なく、得られたる名誉も少なく、ある者には恥辱があり、何者にも光栄がなかったこと。かくのごときが実に、ルイ十四世の後裔《こうえい》たる諸大侯によってなされ、ナポレオンの下より輩出した諸将軍によって導かれたこの戦争の実状であった。この戦争はもはや、あの大戦役をもまたあの大政策をも思い起こさしめない悲しき運命を荷《にな》っていた。
 軍事上の二、三の事蹟は真摯《しんし》なものであり、なかんずくトロカデロの占領はみごとな武勲であった。しかし畢竟《ひっきょう》するに、吾人《ごじん》はくり返して言うが、本戦争のラッパは亀裂のはいった音をしか出さなかった。その全体は曖昧模糊《あいまいもこ》としていた。その似而非《えせ》戦勝の
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