があった。マドレーヌ氏はすべてを支配し導いていたが、一度彼が失墜するや、各人は私利にのみ汲々《きゅうきゅう》として、組織的精神は競争心と変じ、懇篤《こんとく》のふうは苛酷と変じ、すべての者に対する創立者の慈愛は各人相互の怨恨《えんこん》に変わった。マドレーヌ氏の結んだ糸目は乱れて切れてしまった。人々はその方法をごまかし、製品を粗悪にし、信用をなくした。販路はせばまり、注文は減少した。職工の賃金は低下し、工場は業をやめ、破産が到来した。もはや貧しい者らに対する助けもなくなってしまった。いっさいのものが消滅した。
 国家の方でも、どこかに何ぴとかがいなくなったのを感じてきた。重罪裁判所がマドレーヌ氏とジャン・ヴァルジャンとは同一人であることを判定して徒刑場を肥してから、四年もたたないうちに、モントルイュ・スュール・メールの郡においては収税の費用が倍加した。そしてド・ヴィレール氏は、一八二七年二月にそのことを国会で述べている。

     二 二行の悪魔の詩が読まるる場所

 さて、話を進める前に、ちょうどその頃モンフェルメイュに起こった不思議な一事を少しく述べておきたい。それは検察官のある
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