た。
それからなお、再び立ち戻らないようにと、ここに次のことを付言しておきたい。すなわち、モントルイュ・スュール・メールの繁栄はマドレーヌ氏とともに消滅してしまった。惑乱と逡巡《しゅんじゅん》とのあの夜に彼が予見したことは、すべて事実となって現われた。彼がいなくなったことは、果して魂のなくなった[#「魂のなくなった」に傍点]に等しかった。彼の失墜後モントルイュ・スュール・メールには、大人物の転覆後に起こる利己的な分配が行なわれた。それは実に、人類の共同村において毎日ひそかに行なわれつつある栄華の必然の分割である。しかし史上にただ一回記載されたのは、単にあの有名なるアレキサンドル大王の歿後に起こったからである。将軍らが国王の冠を戴《いただ》き、小頭らが自ら工場主となる。羨望的な競争が現われて来る。いまやマドレーヌ氏の大きな工場は閉ざされ、その建物は荒廃に帰し、職工らは分散してしまった。ある者はその地を去り、ある者はその職業を去った。それ以来、すべては大となるよりもむしろ小となり、善を事とするよりもむしろ利得を事とするようになった。もはや中心となるものがなく、到る所に競争があり、いら立ち
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