じ得なかった。
「え、一七九三年が!」
 民約議会員はほとんど悲痛なほどのおごそかさをもって椅子の上に起き直った。そして瀕死《ひんし》の人の発し得る限りの大きな声で言った。
「ああ、ついにあなたはそこまでこられた。九三年! 私はその言葉を待っていたのです。暗雲は千五百年間形造られていた。十五世紀間の後にそれが破裂したのです。あなたはまるで雷電の一撃を非難されるがようです。」
 司教は、おそらく自らそうとは認めなかったろうが、心の中の何かに一撃を受けたように感じた。けれど彼は従容《しょうよう》として答えた。
「法官は正義の名において語り、牧師は憐憫《れんびん》の名において語るのです。そして憐憫とはいっそう高い正義にほかならないです。雷電の一撃に道を誤ってはいけません。」
 それから彼は民約議会員をじっと見つめながらつけ加えた。
「しかるにルイ十七世は?」
 議員は手を伸べて司教の腕をつかんだ。
「ルイ十七世! よろしい。あなたは何のために涙を流すのです? 一個の罪なき子供としてそのためにですか。それならば至当です。私はあなたとともに涙を流しましょう。また一個の王家の子供としてそのためにで
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