たされていて、ちょうど皇帝がそこを通るのに出会った。皇帝はこの老人が自分を物珍しげにながめているのを見て、振り向いてそして突然言った。
「わたしをながめているこの老人は、どういう者か。」
「陛下、」とミリエル氏は言った、「陛下は一人の老人を見ていられます。そして私は一人の偉人をながめております。私どもはどちらも自分のためになるわけでございます。」
皇帝はすぐその晩、枢機官に司祭の名前を尋ねた。そして間もなくミリエル氏は、自分がディーニュの司教に任ぜられたのを知って驚いたのであった。
ミリエル氏の前半生について伝えられた話のうち、結局どれだけが真実であったろうか、それはだれにもわからなかった。革命以前にミリエル氏の一家を知っていた家《うち》はあまりなかったのである。
ミリエル氏は、小さな町に新しくやってきた人がいつも受ける運命に出会わなければならなかった。そこには陰口をきく者はきわめて多く、考える者は非常に少ないのが常である。彼は司教でありながら、また司教であったがゆえに、それを甘んじて受けなければならなかった。しかし結局、彼に関係ある種々の評判は、おそらく単なる評判というに過ぎな
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