七九三年の悲惨な光景、恐怖の念を深めて遠くからながむる亡命者らにとっては、おそらくいっそう恐ろしかったろうその光景、それらが彼の心のうちに脱俗|遁世《とんせい》の考えを起こさしたのであろうか。世の変動によってその一身や財産に打撃を被っても、あえて動じないような人をも、時としてその心を撃って顛動《てんどう》せしむるあの神秘な恐るべき打撃が、当時彼がふけっていた娯楽や逸楽のさなかに突然落ちかかったのであろうか。それらのことは、だれも言うことはできなかった。ただ知られていたことは、イタリーから帰ってきた時、彼は牧師になっていたということだけであった。
一八〇四年には、ミリエル氏はブリニョルの主任司祭であった。既に年老いていて、まったく隠遁の生活をしていた。
皇帝の戴冠式《たいかんしき》のあったころ、何であったかもうだれもよく覚えていないが、あるちょっとした職務上の事件のために、彼はパリーに出かけねばならなかった。多くの有力な人々のうちでも枢機官フェーシュ氏の所へ彼は行って、自分の教区民のために助力を願った。ある日、皇帝が叔父《おじ》のフェーシュ氏を訪れてきた時、このりっぱな司祭は控室に待
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