ですが。」
「私はだれにも会いませんでしたよ。」
彼は財布から五フランの貨幣を二つ取り出して、それを牧師に渡した。
「司祭さん、これは貧しい人たちに施して下さい。――司祭さん、十歳《とお》ばかりの小さい子供です。たしか一匹のモルモットと絞絃琴《ヴイエル》とを持っています。向こうへ行きました。サヴォアの者です。御存じありませんか。」
「私はその子に会いませんよ。」
「プティー・ジェルヴェーに? この辺の村の者ではありますまい。どうでしょうか。」
「あなたが言うとおりなら、それはこの辺の子供ではありますまい。この地方をそんな人たちが通ることはありますが、どこの者だかだれも知りませんよ。」
ジャン・ヴァルジャンは荒々しく五フランの貨幣をもう二つ取り出して、それを牧師に与えた。
「貧しい人たちにやって下さい。」と彼は言った。
それから彼は心乱れたようにつけ加えた。
「司祭さん、私を捕縛して下さい。私は泥坊です。」
牧師はひどく慴《おび》えて、馬に拍車をくれて逃げ出した。
ジャン・ヴァルジャンは最初向かっていた方向にまた走り出した。
彼はそのようにして、見回し呼び叫びながらかなり長い
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