大な精神にも、一時の私情の影がさすこともあった。たしかにかくのごとき人物は政治上の意見を有しないでもよろしいわけだった。といってもこの言を誤解してはいけない。われわれはいわゆる「政治上の意見」というものを、進歩に対する熱望、現今の高潔な知力の根本たるべき愛国的民主的人類的なる崇高な信念と、混同するものではない。だがこの書物の主題と間接にしか交渉のない問題には深入りすることをしないで、ただ単に次のことだけを、ここにしるしておこう。すなわち、ビヤンヴニュ閣下が王党でなかったならばみごとであったろう。そして、騒然と去来する人事をこえて、真理と正義と慈愛との三つの潔《きよ》き光が輝くのが明らかに認め得らるるあの清澄な観想から、彼が一瞬たりとも目を転じなかったならば、みごとであったろう。
 神がミリエル閣下を造ったのは政治上の職務のためではなかったことを是認しながらも、われわれはまた、全権を有するナポレオンに対して、正義と自由との名における抗議、傲然《ごうぜん》たる反対、危険なるしかも正当なる対抗、それを彼があえてなした理由を了解し賞賛したいのである。しかしながら、勢いの盛んなる人々に対する行為
前へ 次へ
全639ページ中105ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング