リットが尋ねた。
ボーイは答えた。
「皆様へと言って旦那《だんな》方が置いてゆかれた書き付けです。」
「なぜすぐに持って来なかったの。」
「旦那方が、」とボーイは言った、「一時間後にしか渡してはいけないとおっしゃったものですから。」
ファヴォリットはボーイの手からその書き付けを引ったくった。それは果して一通の手紙であった。
「おや!」と彼女は言った、「あて名がないわ、だがこう上に書いてある。」
びっくりすることとはこれである。
彼女は急いで封を切り、それを披《ひら》き、そして読み下した。(彼女は字が読めるのだった。)
[#ここから2字下げ]
愛する方々よ!
われわれに両親のあることは御承知であろう。両親、貴女たちはそれがいかなるものであるかよく御存じあるまい。幼稚な正直な民法では、それを父および母と称している。ところで、それらの両親は悲嘆にくれ、それらの老人はわれわれに哀願し、それらの善良なる男女はわれわれを放蕩息子《ほうとうむすこ》と呼び、われわれの帰国を希《ねが》い、われわれのために犢《こうし》を殺してごちそうをしようと言っている。われわれは徳義心深きゆえ、彼らのことばに従うことにした。貴女たちがこれを読まるる頃には、五頭の勢いよき馬はわれわれを父母のもとへ運んでいるであろう。ボシュエが言ったようにわれわれは営を撤する。われわれは出発する、いやもう出発したのである。われわれはラフィットの腕に抱かれカイヤールの翼に乗ってのがれるのである。ツウルーズの駅馬車はわれわれを深淵から引き上げる。そして深淵というは、貴女たち、おおわが美しき少女らである。われわれは社会のうちに、義務と秩序とのうちに、一時間三里を行く馬の疾走にて戻るのである。県知事、一家の父、野の番人、国の顧問、その他すべて世間の人のごとくに、われわれの存在もまた祖国に必要である。われわれを尊重せられよ。われわれはおのれを犠牲にするのである。急いでわれわれのことを泣き、早くわれわれの代わりの男を求められよ。もしこの手紙が貴女たちの胸をはり裂けさせるならば、またこの手紙をも裂かれよ。さらば。
およそ二カ年の間、われわれは貴女たちを幸福ならしめた。それについてわれわれに恨みをいだきたもうなかれ。
[#ここで字下げ終わり]
[#地から8字上げ]署名 ブラシュヴェル
[#地から8字上げ]ファムイュ
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