たし、」とファヴォリットは言った、「黄金《きん》のものがいいわ。」
 だが彼女らは間もなく、川縁《かわっぷち》のどよめきに気を取られてしまった。大きな木立ちの枝の間からはっきり見て取られて、大変おもしろかったのである。ちょうど郵便馬車や駅馬車が出かける時だった。南と西とへ行くたいていの馬車は、当時シャン・ゼリゼーを通っていったものである。その多くは河岸に沿って、パッシーの市門から出て行くのを常としていた。黄色や黒に塗られ、重々しく荷を積まれ、多くの馬にひかれ、行李《こうり》や桐油《とうゆ》紙包みや鞄《かばん》などのため変な形になり、客をいっぱいのみこんでる馬車が、絶えまなく通って、道路をふみ鳴らし、舗石に火を発し、鍛冶場《かじば》のような火花を散らし、ほこりの煙をまき上げ、恐ろしい有様をして、群集の間を走っていった。その騒擾《そうじょう》が若い娘たちを喜ばせた。ファヴォリットは叫んだ。
「何という騒ぎでしょう! 鎖の山が飛んでゆくようだわ。」
 ところが一度、楡《にれ》の茂みのうちにわずかに見えていた一つの馬車が、ちょっと止まって、それからまた再びかけ出した。ファンティーヌはそれにびっくりした。
「変だわ!」と彼女は言った。「駅馬車は途中で止まるものでないと思っていたのに。」
 ファヴォリットは肩をそびやかした。
「ファンティーヌはほんとに人をびっくりさせるよ。おかしな人だこと。ごくつまらぬことにも目を見張るんだもの。かりにね、あたしが旅をするとするでしょう。駅馬車にこう言っておくとする、先に行ってるから通りがかりに河岸の所で乗せておくれって。するとその駅馬車が通りかかって、あたしを見て、止まって、乗せてくれるわ。毎日あることよ。あんたは世間を知らないのね。」
 そんなことをしているうちにしばらく時がたった。とにわかにファヴォリットは、目をさました[#「目をさました」は底本では「目がさました」]とでもいうような身振りをした。
「ところで、」と彼女は言った、「びっくりすることはまだかしら。」
「そうそう、」とダーリアは言った、「例のびっくりすることだったわね。」
「あの人たちは大変長いわね!」とファンティーヌは言った。
 ファンティーヌがそのため息をもらした時に、食事の時についていたボーイがはいってきた。何か手紙らしいものを手に持っていた。
「それなあに?」とファヴォ
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