形《はながた》の飾《かざり》がついていた。――祖父はクリストフのそばに坐《すわ》ってページをめくってやっていたが、やがて、それは何の音楽《おんがく》かと尋《たず》ねた。クリストフは弾《ひ》くのに夢中《むちゅう》になっていて、何を弾《ひ》いてるのやらさっぱりわからなかったので、知らないと答《こた》えた。
「気《き》をつけてごらん。それがわからないかね。」
 そうだ、たしかに知っていると彼は思った。しかし、どこで聞いたのかわからなかった。……祖父《そふ》は笑っていた。
「考《かんが》えてごらん。」
 クリストフは頭《あたま》をふった。
「わからないよ。」
 ほんとうをいえば、思《おも》いあたることがあるのだった。どうもこの節は……という気《き》がした。だがそうだとは、いいきれなかった……いいたくなかった。
「お祖父《じい》さん、わからないよ。」
 彼は顔を赤《あか》らめた。
「ばかな子だね。自分《じぶん》のだということがわからないのかい。」
 たしかにそうだとは思っていた。けれどはっきりそうだと聞《き》くと、はっとした。
「ああ、お祖父《じい》さん。」
 老人《ろうじん》は顔を輝《かがや》
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