心《じそんしん》から、そういう好意《こうい》がうれしかった。そしてかなり機敏《きびん》だったので、自分《じぶん》がほめられたのをさとった。けれども、祖父《そふ》が自分のうちの何を一番ほめたのか、それがよくわからなかった。戯曲家《ぎきょくか》としての才能《さいのう》か、音楽家としての才能《さいのう》か、歌い手としての才能か、または舞踊家《ぶようか》としての才能か。彼はそのいちばんおしまいのものだと思いたかった。なぜなら、それを立派《りっぱ》な才能《さいのう》だと思っていたから。
 それから一|週間《しゅうかん》たって、クリストフがそのことをすっかり忘《わす》れてしまった頃、祖父《そふ》はもったいぶった様子《ようす》で、彼に見せるものがあるといった。そして机《つくえ》をあけて、中から一|冊《さつ》の楽譜帖《がくふちょう》をとり出し、ピアノの楽譜台《がくふだい》にのせて、弾《ひ》いてごらんといった。クリストフは大変困ったが、どうかこうか読み解《と》いていった。その楽譜《がくふ》は、老人《ろうじん》の太い書体《しょたい》で特別に念《ねん》をいれて書いてあった。最初《さいしょ》のところには輪や花
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