け》から下る時の特別《とくべつ》な音楽《おんがく》もあった。(この時の音楽《おんがく》はひときわ輝《かがや》かしいものだった。)それから、母《はは》が食卓《しょくたく》に食物を運ぶ時の音楽《おんがく》もあった――その時、彼は喇叭《らっぱ》の音で彼女をせきたてるのだった。――食堂から寝室《しんしつ》に厳《おごそ》かにやっていく時には、元気《げんき》のいい行進曲《マーチ》を奏《そう》した。時によっては、二人《ふたり》の弟《おとうと》といっしょに行列《ぎょうれつ》をつくった。三人は順々《じゅんじゅん》にならんで、威《い》ばってねり歩《ある》き、めいめい自分の行進曲《マーチ》をもっていた。もちろん、いちばん立派《りっぱ》なのがクリストフのものだった。そういう多くの音楽《おんがく》は、みなぴったりとそれぞれの場合《ばあい》にあてはまっていた。クリストフは決《けっ》してそれを混同《こんどう》したりしなかった。ほかの人なら誰《たれ》だって、まちがえるかも知《し》れなかった。しかし彼は、はっきりと音色《ねいろ》を区別《くべつ》していた。
 ある日、彼は祖父《そふ》の家《いえ》で、そりくりかえって腹《は
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