フリートの言葉が胸《むね》の奥《おく》に刻《きざ》みこまれていた。彼は嘘《うそ》をついたのがはずかしかった。
 それで、彼はしつっこく怨《うら》んではいたものの、作曲《さっきょく》をする時には、今ではいつもゴットフリートのことを考《かんが》えていた。そしてしばしば、ゴットフリートがどう思《おも》うだろうかと考えると、はずかしくなって、書《か》いたものを破《やぶ》いてしまうこともあった。そういう気持《きもち》をおしきって、全く誠実《せいじつ》でないとわかっている曲《きょく》を書くような時には、気《き》をつけてかくしておいた。どう思われるだろうかとびくびくしていた。そしてゴットフリートが、「そんなにまずくはない……気《き》にいった……」とただそれだけでもいってくれると、嬉《うれ》しくてたまらなかった。
 また、時には意趣《いしゅ》がえしに、偉《えら》い音楽家の曲《きょく》を自分のだと嘘《うそ》をいって、たちのわるい悪戯《いたずら》をすることもあった。そして小父《おじ》がたまたまそれをけなしたりすると、彼はこおどりして喜《よろこ》んだ。しかし小父《おじ》はまごつかなかった。クリストフが手《て
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