て、あるだけ歌った。ゴットフリートは何《なん》ともいわなかった。彼はおしまいになるのを待《ま》っていた。それから頭を振《ふ》って、ふかい自信《じしん》のある調子《ちょうし》でいった。
「なおまずい。」
 クリストフは唇《くちびる》をかみしめた。顎《あご》がふるえていた。彼《かれ》は泣《な》きたかった。ゴットフリートは自分でもまごついてるようにいいはった。
「実《じつ》にまずい。」
 クリストフは涙声《なみだごえ》で叫《さけ》んだ。
「では、どうしてまずいというんだい?」
 ゴットフリートはあからさまの眼《め》つきで彼を眺《なが》めた。
「どうしてって……おれにはわからない……お待《ま》ちよ……じっさいまずい……第一、ばかげているから……そうだ、その通《とお》りだ……ばかげている、何《なん》の意味《いみ》もない……そこだ。それを書いた時、お前は何《なに》も書《か》きたいことがなかったんだ。なぜそんなものを書いたんだい?」
「知《し》らないよ。」とクリストフは悲《かな》しい声でいった。「ただ美《うつく》しい曲《きょく》を作りたかったんだよ。」
「それだ。お前は書《か》くために書いたんだ。偉
前へ 次へ
全39ページ中35ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング