だった。そしてクリストフはいつも同じ切《せつ》なさを感《かん》じた。ゴットフリートは一|晩《ばん》に一つきり歌わなかった。頼《たの》んでも気持《きもち》よく歌ってはくれないことを、クリストフは知っていた。歌いたい時に自然《しぜん》に出《で》てくるのでなくてはだめだった。長い間|待《ま》っていなければならないことが多かった。※[#始め二重括弧、1−2−54]もう今夜《こんや》は歌わないんだな……※[#終わり二重括弧、1−2−55]とクリストフが思ってる頃《ころ》、やっと小父は歌い出《だ》すのだった。
 ある晩《ばん》、ゴットフリートがどうしても歌ってくれそうもなかった時《とき》、クリストフは自分《じぶん》が作《つく》った小曲《しょうきょく》を一つ彼《かれ》に聞かしてやろうと思いついた。それは作《つく》るのに大へん骨《ほね》が折れたし、得意《とくい》なものであった。自分がどんなに芸術家《げいじゅつか》であるか見せてやりたかった。ゴットフリートは静《しず》かに耳《みみ》を傾《かたむ》けた。それからいった。
「実《じつ》にまずいね、気《き》の毒《どく》だが。」
 クリストフは面目《めんぼく》を
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