いっているのか、よくわからなかった。)――「お前《まえ》がどんな歌《うた》をつくろうと、ああいうものの方《ほう》が一そう立派《りっぱ》に歌っているじゃないか。」
 クリストフはこれまで何度《なんど》も、それらの夜《よる》の声を聞いていた。しかしまだこんな風《ふう》に聞いたことはなかった。本当《ほんとう》だ、どんなものを歌う必要《ひつよう》があるか?……彼はやさしさと悲《かな》しみで胸《むね》が一ぱいになるのを感《かん》じた。牧場《まきば》を、河を、空を、なつかしい星《ほし》を、胸《むね》に抱《だ》きしめたかった。そして小父《おじ》のゴットフリートに対《たい》して、しみじみと愛情《あいじょう》を覚《おぼ》えた。もう今は、すべての人のうちで、ゴットフリートがいちばんよく、いちばん賢《かしこ》く、いちばん立派《りっぱ》に思われた。彼は小父《おじ》をどんなに見違《みちが》えていたことかと考えた。自分《じぶん》から見違えられていたために、小父は悲《かな》しんでいるのだと考えた。彼は後悔《こうかい》の念《ねん》にうたれた。こう叫《さけ》びたい気がした。「小父さん、もう悲しまないでね。もう意地悪《い
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