楽《おんがく》を通《とお》して彼の心の奥底《おくそこ》までも読《よ》みとられそうだった。クリストフはこれまで、そんな風《ふう》な歌い方《かた》をきいたことがなかった。またそんな歌《うた》を聞《き》いたこともなかった。ゆるやかな単純《たんじゅん》な幼稚《ようち》な歌で、重々しい寂《さび》しげな、そして少し単調《たんちょう》な足どりで、決して急《いそ》がずに進んでゆく――時々長い間やすんで――それからまた行方《ゆくえ》もかまわず進み出《だ》し、夜のうちに消《き》えていった。ごく遠いところからやって来《く》るようでもあるし、どこへ行《ゆ》くのかわからなくもあった。朗《ほがら》かではあるが、なやましいものがこもっていた。表面《うわべ》は平和だったが、下には長い年月《としつき》のなやみがひそんでいた。クリストフはもう息《いき》もつかず、身体《からだ》を動かすことも出来《でき》ないで、感動のあまり冷《つめ》たくなっていた。歌が終わると、彼はゴットフリートの方《ほう》へはい寄《よ》った。そして喉《のど》をつまらした声でいいかけた。
「小父《おじ》さん!……」
 ゴットフリートは返事《へんじ》をしなか
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