彼を見守《みまも》りはじめた。もう夜《よる》になりかかっていた。ゴットフリートの顔《かお》は少しずつ消《き》えていった。あたりはひっそりとしていた。ゴットフリートの顔にうかんでる神秘的《しんぴてき》な感じに、クリストフも引きこまれていった。地面《じめん》は影《かげ》におおわれており、空《そら》はあかるかった。星《ほし》がきらめきだしていた。河の小波《さざなみ》が岸《きし》にひたひた音をたてていた。クリストフは気《き》がぼうとして来《き》た。目にも見ないで、草の小さな茎《くき》をかみきっていた。蟋蟀《こおろぎ》が一|匹《ぴき》そばで鳴いていた。彼《かれ》は眠《ねむ》りかけてるような気持《きもち》だった。
と突然《とつぜん》、暗《くら》いなかで、ゴットフリートが歌《うた》いだした。胸《むね》の中で響《ひび》くようなおぼろな弱《よわ》い声《こえ》だった。少しはなれてたら、聞《き》きとれなかったかも知れない。しかしその声には、人の心を打《う》つ誠《まこと》がこもっていた。声に出《だ》して考《かんが》えているのかと思えるほどだった。ちょうど透《す》きとおった水を通《とお》して見るように、その音
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