年《とし》のほどはよくわからなかった。四十をこしている筈《はず》はなかったが、見たところでは五十|以上《いじょう》に思われた。皺《しわ》のよった小さな顔は赤みがかって、人のよさそうな青《あお》い眼《め》が色《いろ》のさめかけた瑠璃草《るりそう》のような色合《いろあい》だった。隙間風《すきまかぜ》がきらいで、どこででも寒《さむ》そうに帽子《ぼうし》をかぶっていたが、その帽子をぬぐと、円錐形《えんすいけい》の赤い小さな禿頭《はげあたま》があらわれた。クリストフと弟《おとうと》たちはそれを面白《おもしろ》がった。髪《かみ》の毛はどうしたのと聞いてみたり、父親《ちちおや》メルキオルの露骨《ろこつ》な常談《じょうだん》におだてられて、禿《はげ》をたたくぞとおどしたりして、いつもそのことで彼《かれ》をからかってあきなかった。すると小父《おじ》はまっさきに笑《わら》いだし、されるままになって少しも怒《おこ》らなかった。彼はちっぽけな行商人《ぎょうしょうにん》だった。香料《こうりょう》、紙類、砂糖菓子《さとうがし》、ハンケチ、襟巻《えりまき》、履物《はきもの》、缶詰《かんづめ》、暦《こよみ》、小唄集、
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