]楽曲の一節[#ここで割り注終わり])を組みたてようとりきんでいた。そして音楽の天分《てんぶん》がゆたかだったので、まだ何の意味《いみ》も持たないものではあったけれど、ともかくも楽句《がっく》をこしらえ上げることができた。すると彼は喜び勇《いさ》んで、それを祖父《そふ》のところへ持っていった。祖父《そふ》は嬉《うれ》し涙をながし――彼はもう年をとっていたので涙《なみだ》もろかった――そして、素晴《すば》らしいものだといってくれた。
 そんなふうに、彼はすっかり甘《あま》やかされてだめになるところだった。しかし幸《さいわい》なことに、彼は生《う》まれつき賢《かしこ》い性質《せいしつ》だったので、ある一人の男のよい影響《えいきょう》をうけて救《すく》われた。その男というのは、ほかの人に影響《えいきょう》を与《あた》えるなどとは自分でも思っていなかったし、誰《たれ》が見《み》ても平凡《へいぼん》な人間《にんげん》だった。――それはクリストフの母親《ははおや》ルイザの兄だった。
 彼はルイザと同《おな》じように小柄《こがら》で、痩《や》せていて、貧弱《ひんじゃく》で、少し猫背《ねこぜ》だった。
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