あとで、お祖父《じい》さんがもういなくなった時、お前はこれを見て、年とったお祖父《じい》さんのことを思い出してくれるだろう、ねえ! お祖父《じい》さんを忘《わす》れやしないね。」
憐《あわ》れな老人《ろうじん》は思ってることをすっかりいえなかった。彼《かれ》は、自分よりも長い生命《いのち》があるに違《ちが》いないと感じた孫《まご》の作品《さくひん》の中に、自分のまずい一節《ひとふし》をはさみ込むという、きわめて罪《つみ》のない楽《たの》しみを、おさえることができなかったのである。けれども、今から想像《そうぞう》される孫《まご》の光栄《こうえい》に一しょに加わりたいというその願《ねが》いは、ごくつつましい哀《あわ》れなものだった。彼は自分が全《まった》く死にうせてしまわないようにと、自分の思想《しそう》の一片《いっぺん》を自分の名もつけずに残しておくだけで、満足《まんぞく》していたのである。――クリストフは、ひどく感動《かんどう》して、老人《ろうじん》の顔にやたらに接吻《せっぷん》した。老人はさらに心を動かされて、彼の頭《あたま》を抱きしめた。
「ねえ、思《おも》い出《だ》してくれるね
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