をもってること、などを私は見てとることを覚えました。頽廃《たいはい》した享楽家も悪臭紛々たる不道徳家も、白蟻《しろあり》の役目を果たしたのでした。ぐらついてる家屋を建て直すにはまずそれをこわさねばなりませんでした。ユダヤ人もその神聖な使命に服従したのです。すなわち他の民族の間に他国の民衆として、世界の端から端まで人類統一の網を編む民衆として、いつまでも残っていることです。彼らは崇高な理性[#「理性」に傍点]に自由な天地を与えんがために、各国民間の知的境界を打倒しています。われわれの過去の信仰を滅ぼし、われわれが愛する過去の人々を殺害する、皮肉な破壊者、最悪の腐敗者も、神聖なる事業のために、新しき生のために、みずから知らずして働いているのです。それと同様に、超国境主義の銀行家の恐ろしい利益心も、反対の立場にある革命者と相並んで、また幼稚な平和論者とはいっそうよく相並んで、世界の未来の統一[#「統一」に傍点]を、幾多の災害の価によって、否応《いやおう》なしに築き上げています。
御存じのとおりに、私は年老いました。私はもう噛《か》みつきません。私の歯は磨滅《まめつ》しています。芝居へ行きましても、私はもう無邪気な観客のように、役者をののしったり叛逆《はんぎゃく》者を侮辱したりはいたしません。
静けき優雅の君よ、私はあなたに自分のことばかり語りました。けれども、私はただあなたのことばかり考えています。私がいかに自分の自我をうるさがってるかをあなたが知ってくだすったら! 私の自我は圧制的で呑噬《どんぜい》的なのです。それは神が私の首に結びつけた鉄枷《てつかせ》です。どんなにか私はそれをあなたの足下に差し出したかったことでしょう! でもそれはつまらない贈り物です……。あなたの足は柔らかい地面を踏むようにできており、美妙な音をたてる砂を踏むようにできています。私の眼に見えるあなたのなつかしい足は、アネモネの交じり咲いてる芝の上を、そぞろに通り過ぎてゆきます……(あなたはドリアの別墅《べっしょ》にあの後また行かれましたか?)……するともうあなたの足は疲れます。そしてこんどは、客間の奥のあなたの好きな隠れ場所で、読むでもない書物を手にして肱《ひじ》をつきながら、半ば横になってるあなたの姿が、私には見えてきます。私がうるさい男なものだから、あなたは私の言うことなんかに注意を向けはな
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