さらないが、それでも親切に耳を貸してくださいます。そして辛抱するために、ときどき、自分自身の考えにふけられます。けれどもあなたは愛想がよくて、ふと私の一言で遠い思いから我に返られると、私の気に逆らわないように用心しながら、ぼんやりした眼に急いで気乗りの色をお浮かべになります。そして私も実はあなたと同じに自分の言ってることから遠く離れています。私も自分の言葉の響きをほとんど耳にしていません。あなたの美しい顔の上に現われる自分の言葉の反映を見守りながら、心の奥底では、あなたには言わない別な言葉を聴《き》いています。静けき優雅の君よ、私が口にしてる言葉と背中合わせのその言葉は、あなたの耳にもよくはいっています。けれどあなたはそれが聞こえないようなふうをされます。
 これで筆止めます。間もなくまたお目にかかれることと思います。私はこの地でやきもきいたしますまい。音楽会が開かれてる今ではしかたもありません。――お子さんたちの美しい小さな頬《ほお》に接吻《せっぷん》いたします。あなたから生まれたお子さんたちです。それで満足しなければなりませんから……。
[#地から2字上げ]クリストフ

「静けき優雅」の彼女は答えた。

 わが友よ、あなたがよく思い出されましたあの客間の片隅《かたすみ》で、私はあなたのお手紙を受け取りました。そして物を読むときによく私がいたしますように、お手紙をときどき休ませ、自分でもときどき休みながら、読んでゆきました。お笑いなすってはいけません。それは手紙が長くつづくようにといたしたのですから。そういうふうにして私はあなたと午後じゅうを過ごしました。子供たちは私が何を読みつづけているのか尋ねました。私はあなたのお手紙だと申しました。オーロラは気の毒そうに手紙をながめまして、「こんな長い手紙を書くのはさぞ嫌《いや》なことでしょうね、」と申しました。それで私は、私があなたに罰の課業として手紙を書かしたのではなくて、私とあなたとはいっしょに話をしてるのだということを、彼女に言ってきかせました。彼女はなんとも言わないで私の言葉を聞いていましたが、それから弟といっしょに次の室へいって、遊んでいました。しばらくたってリオネロが大声を出しますと、オーロラがこう申しているのが聞こえました。「騒いじゃいけません。お母さまがクリストフさんとお話をしていらっしゃるから。」
 あな
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