愛しているんです。」
「私もそうですの。けれどまたそのために、私たちは衝突するかもしれません。」
「そんなことはありません。」
「いいえそうですわ。あるいはそうでなくても、私はあなたのほうが自分よりすぐれていられることを知っていますから、自分のちっぽけな個性であなたの邪魔となるのが気がとがめるでしょう。すると私は自分の個性を押えつけ、口をつぐんでしまって、一人苦しむようになるでしょう。」
クリストフの眼には涙が浮かんできた。
「おうそんなことは、私は望みません、けっして望みません。あなたが私のせいで私のために苦しまれるくらいなら、むしろ私はどんな不幸にも甘んじます。」
「あまり心を動かしなすってはいけません……。ねえあなた、私はこんなことを申しながら、おそらく自分に媚《こ》びてるのかもしれませんもの……。たぶん私は、自分をあなたの犠牲にするほど善良な女ではないかもしれません。」
「それでけっこうです。」
「でもこんどは、あなたのほうが私の犠牲になられるとしてみます。すると私はやはり自分で苦しむことになるでしょう……。それごらんなさい、どちらにしたって解決がつかないではありませんか。今のままにしておきましょうよ。私たちの友情よりりっぱなものがありますでしょうか?」
彼はやや苦々しげに微笑《ほほえ》みながら頭を振った。
「ええそれで結局、あなたは十分私を愛していられないんです。」
彼女もやや憂わしげにやさしい微笑を浮かべた。ちょっと溜《た》め息をついて言った。
「そうかもしれません。あなたのおっしゃるのは道理《もっとも》です。私はもう若々しくはありません。私は疲れております。あなたのようにごく強い者でないと、生活に擦《す》り減らされるのです……。ああ、時とすると、私はあなたをながめていて、十八、九歳の悪戯《いたずら》青年ででもあるような気がすることがあります。」
「それはどうも! こんなに老《ふ》けた頭をし、こんなに皺《しわ》が寄り、こんなに萎《しな》びた色|艶《つや》をしてるのに!」
「あなたがお苦しみなすったこと、私と同じくらいに、おそらく私以上に、お苦しみなすった、ことは、私にもよくわかっております。それは私にも見てとられます。けれどあなたはときどき、青年のような眼で私をお見になります。そしてあなたから新しい生の泉が湧《わ》き出るのを、私は感ずるのです。私自
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