「もうどうか言わないでください。私は心が刺し通されるようなんです。どうしてあなたはそんな言い方をなさるんでしょう?」
「私が何かいけないことを申しましたか。」
「私を他の女と結婚させようなどと考えられるのは、私を少しも愛してくださらないからでしょう、まったく少しも。」
「いいえ、反対にあなたを愛してるからですわ。あなたを幸福にして上げるのがうれしいからです。」
「では、それがほんとうでしたら……。」
「いえいえ、そんなことに話をもどすのはよしましょう。きっとあなたの不幸になることですから。」
「私のほうは気にかけないでください。確かに私は幸福になるでしょうから。けれども、ほんとうのことを言ってください。あなたは私といっしょになって、不幸になるだろうと思っていられるのでしょう?」
「まあ、私が不幸になる、そんなことがあるものですか。私はあなたを尊敬していますし、たいへん敬服していますから、あなたといっしょになって不幸になるなどということはけっしてありません。……それに、なお申しますと、私はもう今ではどんなことがあっても、不幸になってしまうことはないように思われます。私はあまりいろんなことを見てきましたし、哲学者じみてきています。……けれども、うち明けて申しますと――(それがあなたはお望みでしょう、お怒《おこ》りにはならないでしょうね)――実は私は自分の弱点をよく知っています。幾月かたつうちには、かなり馬鹿《ばか》げた女になってしまって、あなたといっしょにいて十分幸福ではなくなるかもしれません。それが私にはつらいのです。なぜなら私は、あなたにたいしてこの上もなく清い愛情をいだいていますから。私はどんなことがあってもこの愛情を曇らしたくありません。」
 彼は悲しげに言った。
「まったく、あなたがそんなふうに言われるのは、私の苦しみを和らげるためでしょう。私はあなたの気には入らないのです。私のうちにはあなたの嫌《いや》がられるものがたくさんあるんです。」
「いいえ、けっしてそうではありません。そんなに不平そうな顔をなすってはいけません。あなたはりっぱななつかしい方です。」
「それなら私には訳がわかりません。なぜ私たちは一致することができないのでしょうか。」
「あまり人と違ってるからですわ、二人ともあまり特徴のあるあまり個性的な性質だからですわ。」
「それだから私はあなたを
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