るばかりです。」
「僕が君に決闘を禁ずるんだ、いいかね。もし君が二度とやったら、僕はもう君に会わないし、新聞で君を非難するし、君を……。」
「廃嫡《はいちゃく》すると言うんでしょう。」
「ねえジョルジュお願いだから……。いったいあんなことをしてなんの役にたつんだい。」
「そりゃああなたは、私よりずっとすぐれてるし、私より非常にいろんなことを知ってるけれど、でもあの下劣な連中のことは、私のほうがよく知っていますよ。大丈夫です、あんなことも役にたつんです。こんどは奴らも、あなたに毒舌をつく前に、少しは考えてみるでしょう。」
「なあに、あの鵞鳥《がちょう》どもが僕にたいして何ができるものか。僕は彼奴《あいつ》らが何を言おうと平気だ。」
「でも私は平気ではいません。あなたは自分のことだけをなさればいいんです。」
 それ以来クリストフは、新たな新聞記事がジョルジュの短気をそそりはすまいかと気をもんだ。かつて新聞を読んだことのないクリストフが、毎日珈琲店のテーブルについて新聞をむさぼり読んでる姿は、多少|滑稽《こっけい》だった。もし誹謗《ひぼう》の記事を見出したら、それをジョルジュの眼に触れないようにするために、どんなことでも(場合によっては卑劣なことでも)するつもりだった。そして一週間もたつと彼は安心した。ジョルジュの言ったことは道理だった。彼の行為は当分のうち吠犬《ほえいぬ》どもに反省を与えていた。――そしてクリストフは、一週間自分に仕事をできなくさしたその若い狂人にたいして、ぶつぶつ不平を言いながらも、結局自分には彼を訓戒するだけの権利がほとんどないと考えた。さほど昔でもないある日のこと、彼自身オリヴィエのために決闘したときのことを、思い出したのだった。そしてオリヴィエがこう言ってるのが聞こえるような気がした。
「放っといてくれたまえ、クリストフ、僕は君から借りたものを返してるのだ。」

 クリストフは自分にたいする攻撃を平気で受けいれたが、そういう皮肉な無関心がなかなかできない者がいた。それはエマニュエルだった。
 ヨーロッパの思想は大革新を来たしつつあった。発明される諸種の機械や新たな発動機などとともに、急速に進んでるかのようだった。以前なら二十年間も人類を養い得るだけの量の偏見と希望とは、わずか五年くらいのうちに蕩尽《とうじん》されてしまっていた。各世代の精神は、た
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