の記憶を「秘密|牢《ろう》」と名づけたものの中へ放り込んだ。
しかし偶然にも、めったに新聞を読まず読んでも運動記事以外はろくに読まないジョルジュが、こんどはどうしたことか、クリストフにたいするもっとも激しい攻撃の記事を眼に止めた。彼はその記者を知っていた。その男にきっと出会えると思う珈琲店へ出かけて行き、果たして相手を見つけ出し、その頬《ほお》をたたきつけ、決闘を行なって、相手の肩を剣でひどく傷つけた。
その翌日、クリストフは昼食をしてるときに、ある友人の手紙でそのことを知った。彼は息がつまるほど驚いた。食事をそのままにしてジョルジュの家へ駆けつけた。ジョルジュ自身が戸を開いて迎えた。クリストフは疾風のように飛び込んで彼の両腕をとらえ、憤然と彼を揺すぶりながら、激しい叱責《しっせき》の言葉を浴びせかけ始めた。
「この畜生!」と彼は叫びたてた、「君は僕のために決闘したね。だれがそんなことを許した。僕のことにまで干渉する、悪戯《いたずら》者、軽率者! 僕が自分のことを処置し得ないとでも思ってるのか。出過ぎたことをしやがって! 君はあの下劣漢に、君と決闘するだけの名誉を与えたのだ。それが彼奴《あいつ》の望むところだ。君は彼奴を英雄にしてしまった。馬鹿な! もし万一……(君はいつものとおり無分別に突き進んでいったに違いない)……君が殺されでもしたら、どうするんだ!……ばか者! 僕は君を一|生涯《しょうがい》許してやらないぞ!……」
ジョルジュは狂人のように笑っていたが、この最後の嚇《おど》かし文句を聞いて、涙が出るほど笑いこけた。
「ああ、あなたは実に変な人だ、ほんとにおかしな人だ! あなたの味方をしたからって私をしかるんですか。じゃあこんどは攻撃してあげますよ。そしたら接吻《せっぷん》してくださるでしょうね。」
クリストフは言葉を途切らした。彼はジョルジュを抱きしめ、その両の頬《ほお》に接吻《せっぷん》し、それからも一度接吻して、そして言った。
「君!……許してくれ。僕は老いぼれた馬鹿者だ……。だが、あのことを聞くと逆《のぼ》せ上がってしまった。決闘するとはなんという考えだ! あんな奴らと決闘するってことがあるものか。もうけっしてふたたびそんなことをしないと、すぐに約束してくれたまえ。」
「私は何一つ約束はしません。」とジョルジュは言った。「自分の気に入ることをす
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