ことをしたら、奴《やつ》らの新聞仲間の威嚇《いかく》に負けたぐあいになることが、あなたにはわかりませんか。」
「そんなことは構うものですか。」とクリストフは言った。
「では御勝手になさるがいいでしょう。あなたはまっ先に鎗玉《やりだま》にあげられますよ。」
 支配人はクリストフの作品の下稽古を中止しないで、青年音楽家の作品を調べ始めた。一方は三幕のもので一方は二幕のものだった。同じ興行に二つとも出すことに決定した。クリストフは自分が庇護《ひご》してやった青年に会った。自分でまっ先に通知を与えてやりたかったのである。相手は永遠の感謝を誓ってもなお足りないほどだった。
 もとよりクリストフは、支配人が彼の作に注意を傾倒するのを拒み得なかった。青年の作は演出法や上演法において多少犠牲にされた。クリストフはそれを少しも知らなかった。彼は青年の作の下稽古に少し立ち合わしてもらった。その作品をきわめて凡庸なものだと思った。そして二、三の注意を加えてみた。それがみな誤解された。彼はそれきり差し控えてもう干渉しなかった。また一方において支配人は、すぐに上演してもらいたければ少しの削除は余儀ないことを、新進の青年に承認さしていた。それだけの犠牲は最初はたやすく承諾されたが、やがて作者の苦痛とするところとなったらしかった。
 公演の晩になると、若者の作品はなんらの成功をも博さなかった。クリストフの作品は非常な評判を得た。幾つかの新聞はクリストフを中傷した。一人の若い偉大なフランスの芸術家を圧倒するために、手筈《てはず》が定められ奸計《かんけい》がめぐらされたと報じていた。その作品はドイツの大家の意を迎えんために寸断されたと称し、このドイツの大家こそ当来の光栄にたいする下劣な嫉妬《しっと》の代表だと称していた。クリストフは肩をそびやかしながら考えた。
「彼が返答してくれるだろう。」
 しかし「彼」は返答しなかった。クリストフは新聞記事の一つを彼へ送って、それに書き添えた。
「君は読んだでしょうね。」
 相手は返事をよこした。
「実に遺憾なことです! この記者はいつも私にたいしてやかましいのです。ほんとうに私は気を悪くしました。しかしこんなことに注意を払わないのが最善の策かと存じます。」
 クリストフは笑ってそして考えた。
「彼の言うところも道理だ、卑怯《ひきょう》者めが。」
 そして彼はそ
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